全ての照明は消され、カーテンの隙間から漏れ出す微かな光だけが室内を薄暗く照らし出している。時折、ベッドの軋む微かな音が耳に届き、真生子は気恥ずかしさに顔を顰めた。体の上に覆い被さる花京院は、真生子のあちこちにキスを振る舞っている。熱く柔らかい唇が頬へ、首筋へ、鎖骨へ触れる度、真生子の鼓動は急速に高まった。
彼の髪にそうっと触れる。花京院はちらと目を上げた。視線がぶつかると、唇を優しく重ね合わせてくる。触れるだけの軽いキスでも、手が震える程恥ずかしい。
彼のスラリとした指が喉元を滑る。少し躊躇いがちに胸に触れられると、思わず肩が揺れてしまう。掌の中に収められ、服越しに優しく摩られた。あ、と小さく声を漏らすと、彼の喉が僅かに上下した。

「……脱がせても?」

黙って頷くと、花京院はネグリジェのボタンを丁寧に外し始めた。襟を開かれると、下着に覆われた膨らみが彼の目に晒されてしまう。ブラジャーを外そうと、彼の手が背中に回った。

「……ええと……」
「あ……自分でやる」
「す、すまない」

留め具の外し方が分からないらしい、もたついている花京院に思わず笑みを浮かべてしまう。はっきりと口にはしないが、彼もこういうことは初めてらしい。それを真生子は嬉しく思う。
体を少し起こすと、服から腕を抜き、下着のホックを外した。すかさず彼の腕が伸びて来てそれを取り払われる。ブラジャーのカップから溢れた乳房を、花京院は顔を赤くして見つめていた。その視線があまりにも恥ずかしく、頬を熱くしながら腕で隠そうとすると、手首を退けられて優しく制されてしまう。

「綺麗だよ」

彼はそっと顔を近付け、膨らみに鼻先を寄せる。彼の前髪や睫毛が肌に触れるのが擽ったかった。全体を揉まれ、揺さぶられながら、敏感な先端にキスをされると、何とも言い難いむず痒い感覚が下腹部から込み上げてくる。
息を乱し始めた真生子の反応を、花京院は時折上目遣いに伺っていた。感じている顔を見られているのだと思うと、羞恥心が胸の中にぐるぐると渦を巻く。はずかしい、と小声で呟くと、花京院はクスリと笑った。

「でも……これからもっと恥ずかしいことをするんだよ」

太腿の間に滑り込んで来た手に、真生子は脳味噌が沸騰しそうになる。思わずその手に触れると、花京院は困ったように眉根を下げた。

「嫌?」

心配そうな声色で尋ねられて、慌てて首を横に振る。決して嫌ではないのだ、ただ、頭がおかしくなりそうな程に恥ずかしいだけで。
ショーツ越しに優しい指先が触れる。誰にも暴かれたことのない場所に鈍い刺激が与えられ、感じたことのない妙な感覚が広がった。そこをゆっくりと摩られながら、乳首を唇で食まれ、つい悩ましい声が漏れてしまう。それに興奮するらしく、彼はねっとりとそこを舐め上げた。舌で丹念に愛撫されているうちに、足の間が汗以外の水分で湿っぽくなるのが分かってしまう。

「……直接触ってもいい?」
「う、うん」

上擦った声で返事をすると、花京院は恐る恐る真生子のショーツを引き摺り下ろした。恥ずかしさのあまり、いいと言っておきながら手で股を隠そうとするが、やはり彼にそっと退かされてしまう。足を広げられ、心臓が爆発しそうな程に恥ずかしさを覚える。

「や……やっ」

指で亀裂を押し拡げられ、真生子は震えた。全部見られている──自分でもロクに見たことのない場所を、彼が今じっと見つめている。ぬるり、と粘着質な感触。襞を開くように指先で触れられていた。

「こんなにぬるぬるになってる。感じてくれたってことかな。嬉しいな……」

顔を手で覆い隠していた真生子が指の間から覗くと、花京院は照れ臭そうにはにかんでいる。丁寧に太腿の内側へキスをしてゆき、段々と中心へ唇を近付けていった。

「え!? う、うそ、だめ……っ」

淫靡な水音が足の間から聞こえて来て、真生子は頭が真っ白になってしまう。腿に顔を埋めた彼は、夢中になってそこにむしゃぶりついていた。一際感じてしまう突起を舌で擽られ、つい声を大きくすると、彼は何度も何度もそこに吸い付く。
可愛がられる度に腹の奥から熱いものが滲み出てくるような感覚がした。されるがままに、真生子は凄まじい快楽の波に揉みくちゃにされてしまう。

「だめ……、へん、変にな……、っ、」

びくん、と勝手に体が仰け反った。
ひたすらに「気持ちがいい」という感覚が押し寄せ、限界に達してしまった。内腿がブルブルと痙攣する。全身から力が抜け、シーツに沈み込むと、全力疾走した後のように息切れを起こしていた。

「もしかして……いった?」
「? ……え?」
「ああ、可愛い」

息を整えている最中だというのに唇を塞がれる。入り込んでくる舌に応えたくて、自分からもそっと絡ませると、それに気を良くしたらしく、散々口内を犯され尽くされた。
太腿を揉んでいた手が再び濡れた場所へ触れる。ゆっくりと、探るように慎重に長い指を中へ押し込まれ、初めてのことに困惑してしまう。指の根元まで潜り込ませられ、緩く抜き差しされると、まだ肉が強張っている入り口付近に僅かな痛みが走る。反射的に呻くと、花京院はすぐに手を引っ込めた。

「ごめん、痛かった?」
「う……うん。でも、少しだから大丈夫……続けてほしい……」

ぽそぽそと希望を口にすると、彼はほっとしたように微笑んだ。
まずは一本の指で丹念に愛撫され、ほぐされてから、今度は二本重ねた指を突き入れられる。少しきつく、痛みもあるが我慢出来ない感覚ではなかった。彼が手を動かす度、いやらしい水音と共に何とも甘い痺れがそこから生じる。
その動きに合わせて喘いでいると、ふと、花京院がじっと顔を見つめてくるのに気付いて、慌てて手で口を塞いだ。

「我慢しないで」

手をそっと取り払われてしまう。

「ぼくに聞かせて」
「……っ」

優しげに細められた鳶色の瞳を見ると、顔が更に熱くなってしまう。
彼はひとしきり中を掻き回した後、ようやく指を引き抜いた。絡みついた分泌物を、一滴すらも惜しいといった様子で舐め取る彼を直視出来ず、真生子は顔を背けた。堪らなく恥ずかしい。美味しくないよ、と小さな声で呟くと、花京院は笑ってそんなことはないと言う。
彼は真生子の体に残っていた服を全て取り去ってから、ようやく自分のシャツに手をかけた。徐々に現れてくる、薄く筋肉を帯びた美しい体に、思わず見惚れてしまう。他の旅の仲間と比べると痩躯であると思っていたが、十分すぎる程に逞しく引き締まっている。彼が恥ずかしそうに自分の下着を脱ぐのを、真生子も照れて目を逸らした。互いに全裸になって肌を寄せ合い、抱き締められると、彼の暖かい体温がとても心地よかった。肩口に顔を押し付けると、大好きな彼の匂いがした。
足を絡ませると、腿に感じ慣れない妙な感触があり、思わず身を強張らせてしまう。宥めるように頬に口付けを落としながら、彼はそれを優しく真生子の足の付け根に押し当てた。それは熱く、硬く、そして想像よりもずっと大きい。
そんなものが入るのかと不安に思うが、もう一つ心配なことが真生子にはあった。

「あっ……あのね……ええと……」
「ああ、これのこと? 大丈夫だ」

花京院がベッドサイドから取り出した小さな袋に、真生子は目を丸くした。

「ど、どうしてそんなもの持ってるの?」

訝しげな視線を感じたのか、彼ははっとなると慌てて弁明する。

「実は、その……ポルナレフが、アスワンを発つ直前に病室へ来て……その時にはもう君も一緒に残ると決まっていたから、必要になるかもしれないと言って」

その時は突っ返そうとしたんだけど、本当に必要になるとは、と彼は苦笑する。あの朝、真生子と花京院以外の皆がジープに乗り込んだ時、ポルナレフが妙に車内からウインクを送ってきたのを覚えているが、あれはそういう意味だったのか。カーッと頬に血が集まるのを感じながら、そうなの、とだけ返すのがやっとだった。
花京院はその小さな包みを破り、中の薄いゴムを彼自身に被せる。もたつきながらその作業を終えてから、もう一度真生子の脚の間に体を滑り込ませてきた。亀裂にぬるりと擦り付けられた滾りに恐怖し、ぎゅっと身を縮める。それを慰めるように頬へキスを落とされ、真生子は目を細めた。

「その……痛いかもしれないけど、」
「いいよ……きて」

間近に迫る彼の瞳を見つめながら微笑む。確かに、破瓜は痛くて苦しいかもしれない。それでも、彼と一つになって愛し合いたい。言いながら花京院の頬に触れると、彼がごくりと唾を飲み込んだのが分かった。

「真生子……っ」

ぐい、と脚を持ち上げられて。無防備になった場所に、体の中を押し上げる圧迫感を感じた途端、狭い場所を無理矢理拡張されるような激痛が走った。

「いッ、……た、ぁ……っ」

どんなにキツくても我慢しようと意気込んでいたのに、まだ先端も入りきっていない段階で苦痛の声を漏らしてしまった。生理的な涙に視界が滲む。拳を握り締めて耐えていると、彼の手がそれを解いて指を絡ませてきた。ぼやける視界の中、花京院が眉間に皺を寄せながら熱い息を吐き出したのが見えた。

「……辛い?」

目尻に溜まった涙を唇で吸い取ってから、彼は不安そうに問う。真生子は小さく頷いたが、「やめないで」と口の中で呟いた。

「我慢するから……大丈夫だから」

彼の首に腕を回して抱き締める。胸が触れ合い、肌が擦れるとどうしようもなく気持ちが良い。彼の肌は熱く、じっとりと汗ばんでいた。真生子も同じだった。
腰に手を添えられたかと思うと、花京院ははーっと息を吐き出してから、一息で深く体を押し沈めた。

「──~ッ!!」

声にならない悲鳴が喉から溢れる。ぶつ、と中で何かが拡がって裂けるような痛みが駆け上がってくる。
あまりの痛みに震える真生子を気遣いながらも、彼は根元まで自身をそこへ埋めた。肌と肌がぴったりと、隙間なく密着している。あんなものが本当にこんなところへ入ってしまったのか、と感慨深く思う。

「入ったよ……全部」
「うん……苦しい」
「まだ痛むかい?」
「少し……でも、そうじゃなくて……お腹の中が、花京院くんでいっぱいになってて……」
「……典明、だろ」
「あっ、」

ぐっと奥を押し上げるようにされ、妙な感覚が子宮の辺りから広がった。びく、と内腿が震える。処女膜を突き破られる最中はあんなに痛かったというのに、今は僅かな痛みがじんじんと残ってはいるが、耐えられない程では無い。むしろ、花京院が僅かに腰を引き、体を揺らす度に、甘く痺れるような刺激が結合部から生じている。
の、のりあき。と言われるままに訂正すると、彼は汗を滲ませた顔で満足そうに笑ってみせた。唇を重ねて熱心なキスを振る舞いながら、ゆっくりと腰を後ろへ引く。抜け出る寸前で、またゆっくり、奥へ押し込まれる。その行為を繰り返されると、粘膜が擦れ合う度、ゾクゾクと背筋の粟立つような快感が広がった。苦痛に呻くばかりだった真生子は、気が付けば次第に甘い嬌声を漏らすようになっていた。

「やばいな……すごく気持ち良い」

花京院は体を起こすと、真生子の膝の裏を押し上げるように足を広げた。繋がっているところを彼に見られている、と思うと羞恥の感情から背筋が震えてしまう。彼はピストン運動にも慣れてきたらしく、スムーズに抜き差しを繰り返している。ずっ、と奥を突かれると、頭が真っ白になる程の快楽が走り抜けた。

「あ……のり、あき……典明、のりあきっ……」

縋るように彼の胸にしがみ付き、確かめるように必死に名前を呼んだ。

「……あ、」

骨張った喉から、そんな短い声が漏れた。
ぎゅうと真生子を抱き締めてきたかと思うと、彼の体は硬直し、ぶるりと背筋を震わせながら、深く息を吐き出す。

「典明?」
「…………」
「……大丈夫?」
「…………ごめん」

花京院は申し訳なさそうにそう謝ると、のろのろと腰を退けた。真生子は思わず微笑みながら、ううん、と首を横に振る。名前を呼ばれて、達してしまったらしい。ついつい嬉しくなる。彼にとっては情けないことかもしれないが、今の真生子にはそんなことさえも愛おしくて仕方がなかった。
胎内からぬるりと抜け出た彼のそれに目を落とすと、ゴムの先端には白い液体が沢山詰まっている。それを緩慢に取り外そうとした花京院は、何かを見つけて驚いたように手を止めた。

「血だ……血が出てる」

まだ少し硬さを残すものには、一筋の赤が絡み付いていた。純潔だったことの象徴だった。ふと花京院を見ると、彼はこちらを見つめている。真生子? と確かめるように名前を呼ばれ、気が付くと頬を温いものが伝って行った。

「……嬉しいの」

そっと呟いた心からの言葉に、彼はゆっくりと目を開いた。腕を伸ばし、真生子を胸の中にきつく閉じ込める。強く、それでいて大切なものを守るように優しく。

「泣かないで」

耳元で宥めるように囁かれた言葉に、ただただ黙って頷いた。逞しい胸に頬を押し付ける。

この愛しい体温を永遠に喪いたくないと、唇を噛み締めながら真生子は誓った。何としても、彼を、仲間を守り抜くことを。