けふ、と小さな咳が何個か飛び出る。何だか喉の奥も痛むし、風邪を引いてしまったのかもしれない。暖炉のそばのソファに座って体を温めながら、ナミネはため息を漏らした。風邪薬を貰ってくるのがいいかもしれない。そうすれば召使からジョースター卿に伝わって、ただでさえ体調のすぐれない義父に余計な心配をかけてしまうかもしれないが、風邪が悪化してもっと酷くなるよりは良いだろう。
玄関の扉が開く音がして、振り返ると、出掛けていた兄が丁度帰ってきたようであった。

「兄さん。おかえりなさい」
「ああ……ただいま」

こほ、とまた咳がひとつ。ディオは訝しげに顔を顰めたあと、妹のそばに寄って体を屈めて覗き込んできた。

「風邪か?」
「うん……そうみたい」

兄は少し考えるような仕草の後、懐を探って小さな包みを取り出し、ナミネに手渡した。何かの粉薬のようだ。ナミネは首を傾げた。

「なあに? 風邪の薬なの?」
「ロンドンにいたころによく世話になっていた薬屋のものだ」
「薬屋さん?」
「ああ。おれは他の用があって行ったんだが、よく効くから持っておけと渡されたんだよ」

飲んでおくように言いつけ、ディオはさっさと階段を登って自室へ戻ってしまった。ナミネは手の中を見下ろしてみた。確かにこの薬包の折りたたみ方には見覚えがある。きっと、店主が心優しく親切な人で、まだ若いディオに世話を焼きたくなったのだろう。何より彼が自分を気遣ってくれたということが嬉しい。ナミネは頬を少し染めながら、召使に頼んで水差を用意してもらい、薬を飲み込んだ。



……部屋が暑い。
息苦しさに耐えかねてシーツを胸の下まで引き下ろし、ナミネは何度も寝返りを打った。頭がぽーっとして、脂汗が額にうっすらと浮かび、呼吸が荒くなっていく。何かがおかしい。もしかして熱が出てしまったのだろうか……どうにも眠ることができず、天井を見上げていると、不意に部屋の扉の軋む音がした。

「兄さん……?」

細い声で呼びながら頭を上げると、暗がりの中から音もなくディオが姿を現した。

「起きてたのか? 体の具合はどうなんだ」

と彼はベッドの縁に腰を下ろす。何時もよりずいぶんと優しい兄に、何の疑念も抱かず、ほっと胸を撫で下ろした。ディオの骨張った大きな手が伸びて来て、すうっと頬を撫ぜる。なぜかその何気無い仕草に敏感に反応してしまい、ナミネはビクッと肩を揺らした。

「どうした?」
「なんでもない……兄さん、あのね、わたし熱があるみたい……なんだか変なの」

彼の手から逃げようと、シーツの中に収まりながら言うと、ディオはうっすらと口元を歪ませた気がした。

「熱? 確かに顔が赤いな」
「あっ」

首筋に触れられると、ぞわりとした何とも言えない感覚が背筋を走り、反射的に声を漏らす。愛撫された訳でもないのに……とナミネは体を震わせた。体の芯が熱く疼き、彼にもっと触れて欲しいと願い始めている。

「……苦しいのか?」

顔を覗き込んでくる兄の目を直視できず、顔を背けるが、頬に手を添えられて強引に彼の方を向かされる。確かに、体は苦しいが、これは本当に風邪のせいなのだろうか。はあっ、と思わず熱い息が漏れ、涙が滲み、眉根を寄せる。ディオのギラギラした金色の目が僅かに細められた。

「うん……苦しい。体が熱くて」
「あの薬は飲んだな?」
「ええ、でも効かなかったのかしら……」

ディオの手が下の方へ滑っていく。寝巻きの上からゆっくりと乳房に触れられ、ナミネはピクリと反応してしまう。ゆるやかに摩られ、揉まれながら、ピンと勃った乳首の周りをくるりと撫でられる。熱のせいか、いつもより過剰に体が反応してしまい、ジワジワと与えられる刺激に堪らず体を捩った。

「あ……にいさ……」
「風邪は人にうつせば治るというからな。おれにうつしてしまうといい。お前は、子供の頃からあまり体が丈夫じゃない……風邪を引くといつも長引いて辛いだろう?」

優しい手つきで寝巻きのボタンを外され、汗ばんだ乳房が外気に晒された。

「そ、そんな……だめよ……」
「お前も触れて欲しがっているように見えるぞ。こんなにここを大きくして……」

彼の言う通り、つんと上を向いた乳首は恥ずかしいほど硬く、腫れ上がっている。ディオは焦らすように、一番触れて欲しいところには触れず、乳輪を撫で、乳房全体を柔らかに揉みほぐした。乳首はもう触れて欲しくて疼いてたまらないのに、彼は中々触れてくれない。あまりにもどかしく、ナミネは腰をくねらせた。それに気付いたのか、ディオの指はようやく二つの蕾に触れる。きゅっと摘みあげて擦られ、軽くしごかれると、今まで経験したことのない激しい快楽がナミネの体を駆け巡った。

「あ……はあっ、にいさん……やっぱりわたし……ヘンなの……」
「どう変なんだ?」
「す、すごく、感じちゃ……っ」
「いけないな……熱が高くなってきたんじゃあないか?」

ディオは小さく笑い、優しげにキスをしてくる。潜り込んできた舌に縋るように自身のそれを絡めると、自分が熱くなっているせいか、少し冷んやりとしていた。その間も胸の飾りへの執拗な愛撫は止まない。爪先で優しく引っかかれ、先端を擦られているうちに、ナミネは堪え難い快楽の波に襲われ、キスをしたままオルガスムに達してしまった。
声もなく身を硬くして絶頂を迎えた妹に、ディオは嬉々とした眼差しを向けてくる。胸だけで達してしまうなんて、信じられない……ナミネは荒い息を整えようとしながらもグッタリとシーツに沈み込んだ。

「やはり相当敏感なようだな」

ディオは手早く自身の服を脱ぎ去り、半裸のナミネのネグリジェも取り払った。下履きを脱がされると、足の付け根はもうぐしょぐしょに蕩けてしまっているのが自分でもわかり、ナミネはさらに顔を赤く染める。

「あ……はぁ……」
「こんなに濡らして……はしたない奴だ」

ディオの指がすうっと濡れた亀裂をなぞり、肉を左右へ押し開いた。やはり肝心なところへは触れてくれず、しばらく膣の入り口の周りの襞を撫でるように愛撫する。それだけで淫らな水音が聞こえてきてしまい、ナミネは泣き出したい思いに駆られた。

「も、我慢できない……ちゃんと触って、ディオ兄さん……おねがい……」

ナミネは震える声でそう懇願した。ディオは愉快で仕方がないといった表情でこちらを一瞥したあと、硬くなった小さな膨らみの周りを指でなぞった。それから急に摘み上げて擦り上げられ、反射的に悲鳴のような声をあげて仰け反った。

「ひっ……!」
「ナミネはここが好きだからな」
「あ、だめ、にいさん……そんなにしちゃ……いやっ、また、……ッ」

花芽を押し潰されながら、蜜を噴き出す入り口に指を突きたてられた。中をかき回され、ナミネは堪らずに二度目の絶頂を迎える。休む暇もなく愛撫は続き、兄の両手から与えられる快楽に、数えられないほど何度も達してしまった。

垂れこぼした愛液がシーツに幾つも染みを作り、強制的にイかされ続けたナミネが疲労困憊してグッタリとした頃、ディオはようやく自身を取り出した。赤黒く充血し天を向くそれを目の当たりにし、子宮の奥が再び疼き始める。兄はナミネの脚を持ち上げ、お互いの性器を擦り合わせた。
入り口に先端が潜り込んできて、そのまま突き上げられるのかと思えば、意地の悪いことにすぐに引き抜いてしまった。何度も先端だけ挿れて抜いてを繰り返され、焦らされ続け、ナミネは半泣きになりながら兄を見上げる。ディオは面白そうにこちらを見下ろし、膣口にそれを押し当てながら尋ねた。

「欲しいか?」
「ほ、し……欲しい……にいさん……にいさんが欲しい……がまんできないの……」

息も絶え絶えになりながら、ナミネはそう乞うた。普段なら脅されても言えないような台詞が勝手にするすると飛び出してくる。それを恥じらう余裕も残っていない。ディオはにやりと口元を歪ませて笑うと、はち切れそうなほど太く膨らんだそれを、ナミネの疼く膣の中に一息で突き立てた。

「ひっ……!」

甘く強い痺れが膣から子宮、脳髄を駆け上がる。幾度目かの絶頂を迎え、ナミネは弓なりに仰け反った。ひと突きしただけで達し、ぶるぶると震えるばかりの妹を、ディオは満足げに見下ろしながら、いつもよりさらに激しい抽送を繰り返し始める。

「あっ、ああ、あぁっ、」
「ナミネ……」

熱く重たいものが躯の中を行き来し、その度に内壁がこすれて強烈な快感が駆け上がる。ディオは一瞬顔をしかめ、深く熱い息を吐き、妹の胸に顔を埋めると、色々な場所にリップキスを振舞った。

「力を抜け……おれを食い殺す気か?」
「や、むり……できない……」

あまりの快楽に、頭はもう正常に働かなくなっている。生理的な涙をぽろぽろと零しながらディオを見上げると、彼の喉が微かに上下したのがわかった。性急に唇を貪られ、こじ開けて入ってきた舌にされるがままになる。一方で再び乱暴なピストンが再開され、ナミネは声を堪えることができない。

「んう……ううん! んっ……ふぁ……」
「そんな大きな声を出していいのか? ジョジョに聴かれてしまうぞ?」

キスの合間にそんな意地悪なことを言われ、ナミネは慌てて口元に手をやろうとする。しかしそれを取り払われ、再び深く口づけられた。絡まる舌さえも快感に感じ、体の奥からさらに溢れ出す蜜が律動のたびに押し出され、シーツや太腿に散る。ぐちゅぐちゅとみっともない音を立てながら中をかき回され続け、ナミネはまたしてもオルガスムを迎えた。ナミネが体を反らせて押し殺した悲鳴を上げたのと同時に、ディオもまた再奥で精を吐き出した。

「んんっ…………はあっ……」

胎内に熱いものが滲むのを感じなから、ナミネは肩や太腿を痙攣させる。彼が全てを放ち終え、ゆっくりとそれを引き抜くと、今まで栓をされていた膣からドロリと熱いものが流れ出した。

(あ……っ)

きゅん、と子宮の入り口が鈍く疼き始める。普段なら一度の性交で身も心も満たされ、疲れて眠ってしまうのに、今日はやはり何かがおかしい。

「にいさん……」

乱れた息を整えている兄を呼ぶと、彼は黄金の瞳で妹を見た。ナミネは堪らず手を伸ばし、精に濡れた彼の性器に触れる。まだ硬さを保つそれを手の平で握り締めると、ディオは訝しげに顔を顰めた。

「ナミネ?」

ナミネは体を起こし、ディオを押し退ける。必然的にベッドの上に横たわった兄の上に跨ると、ディオは面喰らったような顔をした。性器同士をこすり合わせるように体を動かすと、中から溢れてきた精液と愛液がにちゃにちゃと淫猥な音を立てた。

「はぁ……はあ」
「……いいぞ……好きなようにしろ」
「あ……にぃさ……」

羞恥心も何もかもどこかへ消え去ってしまい、ただただ今は体の疼きを慰めたくて、何も考えられない。ナミネは手の中に包んでいた彼のそれを上向きに立てると、その上に恐る恐る腰を落とした。
しかし、

「…………?」

慣れない行為のうえに不器用さが災いして、何度も彼の切っ先を探るように滑らせるが、ここかと思う場所で体を沈めても、痛みが走るだけで入っていかない。ナミネは次第に焦らされて泣きべそをかきそうになった。
そんな妹を見かねたのか、ディオは小さなため息をついた後、蜜で濡れて滑る場所に指を伸ばしてくる。

「仕方ない奴だ」

角度を調整し、それからナミネの腰を両手で掴むと、ずぶり。と一気に貫いた。

「ひ……!」

予告なく与えられた快楽に、ナミネは背筋を仰け反らせて声にならぬ声を上げる。それだけでもうふにゃりと力が抜けてしまった。ディオの腹に縋るようにしがみついていると、

「ほら……入れてやったんだから好きなように動けよ」

と彼は意地の悪い笑みを浮かべる。ナミネは朦朧としながらも、兄の逞しい腹に手をつき、言われるままに腰をゆっくりと引いてみた。
甘く痺れるような快楽が結合部から駆け上がってくる。最初はゆるゆると腰を動かしていたが、次第にそれでは物足りなくなり、段々と動きを早めていく。律動に合わせて揺れる乳房を、ディオの両手が包み込んで揉みほぐし、いやらしく愛撫してくる。あまりの快感に、ナミネは体をぶるりと震わせた。

「あっ……あっ、あ……はあ、」
「そんなに好いのか?」
「ん……いい、いいっ……すき、にぃさん……ディオにいさん……好き……」

半泣きになりながら、うわ言のように繰り返し、腰を揺らしていると、ディオは一瞬手を止めたかと思うと、強引にナミネの手を引いて自身の胸板の上に妹を寝かせた。それから尻を両手で掴まれ、何事かと後ろを振り返る暇なく、激しく下から突き上げられて背筋が反った。

「あっ!」
「全く……可愛いやつだ。あまりおれを煽るな」

ガクガクと激しく揺さぶられては、あまりの衝撃に目の前がチカチカして星が散ってしまう。兄の胸に添えていた手はいつの間にか肩を強く掴んで、彼の肌に爪を食い込ませてしまっている。そんなことは気にならないといった様子でディオは律動を繰り返す。我慢しきれずに悲鳴のような声が漏れると、彼の顔が近付いてきて唇で口を塞がれてしまった。ギラギラと欲望を剥き出しにした琥珀色の双眸と視線がぶつかる。ナミネはハッと、一瞬だけ我を取り戻したが、次の瞬間にはまた体の奥を抉られて、頭の中を真っ白に染めてしまった。
ぬるぬると舌を絡ませあいながら兄妹は様々な体液に塗れ、夜が明けるまで愛し合い、もう何度達したか分からぬという程に可愛がられ続けたナミネは最終的に意識を飛ばしてしまった。


◆◇◆


「ああ……やだ、本当に兄さんにうつしちゃったのかしら」

翌朝の食事の後、小さく咳き込んだ兄を目にして、ナミネは眉尻を下げた。一晩中たっぷりとまぐわい続けた名残で腰は軋んでいるが、夕べ感じていた体のだるさや熱、咳はどこかへ消え失せている。

「大丈夫だ……お前の方はどうなんだ」
「うん……平気みたい。ごめんなさい、兄さん」
「いいと言ってるだろ。うつせば治るだなんて本気で思っちゃあいないが、あの薬がきちんと効いたらしいな」

ディオはそう言うと、大学へいく準備をすると言ってさっさと踵を返した。あまりの白々しい言い様にナミネは呆れ返る。随分と小馬鹿にされたものだ。騙されてまんまと乗せられてしまった自分が悪いのだけれど、いくらなんでも気付かないと思ったのか。

「あのねえ……兄さん。あれは確かにきちんと効いたんでしょうけれど、わたしの風邪が治ったのは、きっと兄さんにうつしたからよ」

そうでしょう、と大きな背中に投げかけると、兄は少し振り返り、クッと唇を釣り上げて笑った。