「今日はなんだか元気がありませんね」
「えっ?」

昼餉のあと、一緒に食器を片付けていた物吉にそう尋ねられて、柊の声はつい裏返りそうになった。心臓の鼓動がにわかに激しくなる。それを相手に悟られないように、一呼吸置いてから、「いつもと変わりませんよ?」と穏やかに笑いかけてみた。けれど、彼はその答えには納得しきれなかったようだ。

「でも、そういえば頬が少し赤いような。大丈夫ですか?」
「なんともありません。でも、そうですね、もしかしたらちょっと、疲れてるかも……」

すこし俯いて顔を隠しながら、たどたどしく言葉を紡ぐ。じわり、と額に汗が滲んでくるが、幸いにも前髪で隠れているので、物吉からは見えないだろう。彼は依然、心配そうに眉を顰めている。優しい彼に「嘘をついている」ということがあまりに心苦しくて、皿を拭く手がつい震えてしまう。

「柊」

ふと、後ろから呼び掛けられて、柊は飛び上がるような心地で振り返った。
厨を覗き込むようにして、兄刀である和泉守兼定がそこに立っていた。不機嫌そうに片眉を持ち上げ、目を眇めている。今の物吉とのやり取りを彼に聞かれていたと気が付き、ただでさえ穏やかでない心音がいっそう激しさを増しはじめた。

「おまえ、具合が悪いなら悪いと言やぁいいだろ?」
「え……と、」

和泉守はつっかけに足を突っ込んで土間に下りてくると、柊の手から皿を取り上げてしまう。腰を引き寄せられ、そのはずみで彼の胸に寄り掛かかった。

「悪りぃな、物吉。ちょっとこいつ、部屋で寝かしつけてくるわ」

恐る恐る彼を見上げてみると、その青い双眸はジッと柊を見つめていることに気がつく。その瞳の裏に込められた意図に気付かぬはずがない。びくり、と肩を震わせると、腰に添えられた手に僅かに力が篭ったのが分かった。
物吉は何も疑うことなく頷き、柊に優しく笑いかける。

「はい、それがいいと思います。お部屋でゆっくり休んでいてください。ちょうどお片付けも終わりましたしね」

そんなふうに仲間を気遣う表情を向けられては、もう何も意見できなくなってしまい、柊は小さな声で「はい」と返事をした。
和泉守に支えられながら廊下に上がるとき、りん、と小さな鈴の音がしたことに、物吉が気付いていなければいいなと、柊は切に願っていた。


◆◇◆


「……駄目じゃあねえか、他のやつに悟られちゃあ。誰にもバレないようにしろと言い付けただろ?」
「う……」

ぴしゃりと後ろ手に襖を閉じきって、和泉守は唇の端を持ち上げる。柊は途端に腰が砕けてしまい、部屋の隅に蹲った。
彼はもう愉快で愉快で仕方がないという様子で柊に迫ると、荒々しい手つきで着物の裾を割り、腿の間に指を滑らせる。くちゅり、と濡れた音が柊の耳にも届いて、あまりの恥ずかしさに背筋が震えた。

「ああ……っ」
「あーあ。こんなに溢れさせちまって……着物まで染みずに済んで良かったな」
「あっ、あにさまっ」
「ずっと、ここに力を入れてたのか? ん?」

彼は腿を伝うほど溢れた愛液を掬い上げ、無遠慮に指を差し込んでくる。待ち望んでいた刺激が唐突に与えられ、甘ったるい声が勝手に喉から漏れ出した。

「ひ、やァ、あっ」
「ココにしっかり入ってるなァ。ほら、オレが触ってるのが分かるか?」
「やん、あにさま、だめえ、揺らしちゃだめえ……っ」

こつこつと「中のもの」を叩かれ、その刺激にただただ啼くしかない。りん、りん、と胎内で鈴が鳴る。その度、膣の中でそれが震えて、ゾワゾワとした快感が駆け上ってくるのだ。
和泉守はしばらくそこを悪戯したあと、ようやくずるりと指を引き抜く。それから蜜でぬめる指先を使って、ぷっくりと腫れ上がった"さね"を小刻みに愛撫した。弱いところを重点的に責められ、はしたない嬌声を上げる。すると無意識に動いた肉に押し出され、「中のもの」がひとつ、コロリと外へ飛び出した。

「あ……!」

りん、と可愛らしい音を立てて、はだけた湯文字の上に転がる。
柊の中に埋め込まれていたのは、つるりとした金属製の小さな球だ。りんの玉、という代物らしい。これの中に鈴が仕込まれていて、動くたびに体の中で鳴るのだ。
ねっとりといやらしい糸を引いている性具を改めて目にして、柊の頬はますます熱くなる。これがふとした時につるりと滑り落ちそうになってしまうので、「仕込み」をされた今朝からずっと、下腹部に力を込め続けていなくてはならなかったのだ。

「おいおい。まだ出していいとは言ってねえぞ」
「ひぁっ……」

和泉守はそれを摘み上げると、自分の指で愛液を拭い取ってから、容赦なく柊の中に押し戻す。身じろぐと、下腹部で「りん」と小さな音がした。それがあまりに恥ずかしくて、なんとか自力で押し出そうと股に力を込めようとした瞬間、足を開くように大きく持ち上げられ、柊は面食らった。
彼は股引をずらして、天に向かってビンと立ち上がった熱を取り出す。思わずヒッと悲鳴をあげた柊が顔を背けた隙に、それはもう秘所に突き立てられていた。

「──あっ!?」

体の中心をずぐりと抉られ、背筋が勝手に反り上がる。蕩けたそこは難なく彼のものを受け入れ、根元まで飲み込んでしまった。

「あ、うそ、だめ、なかに入ってるのにっ、あ、あっ」
「後でオレが出してやるよ。ああ……こいつか」
「あ……っ!」

中の玉を叩かれると、二つの球が互いにぶつかり合って、鈴の転がる音が体内から響く。それは和泉守の耳にも届いたらしく、彼は楽しそうに口元を歪めて笑った。

「突く度にここから鈴の音がするたぁ可愛いねえ」

和泉守は言いながら、柊の恥骨のあたりを指の腹でトンと叩く。体を揺さぶられる度にチリチリと可愛らしい音がするので、あまりに恥ずかしくて、もう目を開けていられない。
ふと着物の襟を左右に開かれ、胸を揉もうと彼の手が潜り込んでくる。乳首をキュッと摘まれては、あちこちから与えられる刺激に頭が混乱しきってしまう。

「はぁ、あ、やあぁっ」
「真昼間だってのに、そんな大声出していいのか?」
「……っ、う……っ!」

柊はハッと我に返った。慌てて自分の口元を手で抑えるが、彼にとっては焦る姿すらも面白いらしい。
喉の奥で低く笑う声が聞こえた、と思った次の瞬間には手を剥ぎ取られ、代わりに彼の唇が噛み付いた。漏れる声を飲み込むように、口の中に滑り込んできた舌が纏わりついてくる。

「……ふ、……っ、ん……!」

その間も無遠慮に続けられる抽送に、頭がじんと痺れ始めていた。りんの玉が和泉守に押され、奥の壁に擦り付けられて、その度に彼を締め付けてしまう。
次第に、抗いがたい快感の波が押し寄せてくる。それに飲み込まれそうになって、縋るように兄刀の胸にしがみ付いた。

「あ、あ、あにさま、も、わたし、いっちゃ、いっちゃいま、っ」
「ああ……、いいよ、イけよ。オレも、出すぞ、お前の中に、っ」
「う、や、ああぁ……っ!」

奥の好いところを小刻みに擦り上げられ、柊はついに背筋を仰け反らせて気をやった。ほぼ同時に、頭上で彼が小さく唸り声をあげる。
腹の奥にじわり、とぬるいものが広がった。
和泉守は長い溜息を吐き出し、柊の上に覆い被さるように倒れこむ。しばらくの間、そうして抱き合ったまま、二人は乱れた息を整えていた。

「…………あ、」

彼がようやく体を持ち上げる。今にもどこかへ飛んでしまいそうだった柊の意識は、ゆるゆると畳の上へ引き戻された。
重たいものが体の中から出ていくと、ぷちゅ、と音を立てて、彼の精が中から溢れ出してくる。下腹部に少し力を込めると、精液と一緒にりんの玉が二つ、ぽとんと吐き出された。鈴の音に気が付いた和泉守は、例の意地悪な笑みを浮かべながら柊の亀裂を指で押し開く。濡れた肉が糸を引く卑猥な音が聞こえ、恥ずかしさに腿が震えてしまう。和泉守は緩んだ穴に指を差し入れ、中を確認するようにくるくると掻き回した。

「ほぉ、自分でちゃんと全部出せるんじゃあねえか。感心感心」
「うぅ……」

羞恥で涙目になりつつ、ヘロヘロの体を起こして和泉守を睨め付ける。それに気が付いた彼は「あん?」と眉を吊り上げた。

「こ、こんなイジワルするなんてぇ……」
「お前も楽しんでたろうが。気持ちよかったろ?」
「よ、よかったですけど、物吉さんの前でウソつかせるなんて、ヒドイです……っ、あ!」

中に突っ込まれたままだった指をぷちゅぷちゅと抜き差しされ、まだ敏感なそこは大袈裟に反応してしまう。反射的に瞑ってしまった目をおそるおそる開けると、彼はムッとしたように眉間にシワを寄せていた。

「なあ、おい。まぐわいの直後に他の男の名前を口にする奴がいるか」
「……っ、す、すみません……」
「どうやら、躾が足りねえようだな」
「ひ……!」

さきほど吐精したばかりのはずの彼の男茎は、もう硬さを取り戻したのか、それともまだ衰えていなかったのか。気が付けば、何事もなかったかのようにそそり立っている。
怯える妹刀の体をうつ伏せにさせ、腰を持ち上げると、和泉守は間髪入れずにそれを捻じ込んできた。先ほどまで激しく抉られていた場所はまだ十分に柔らかく緩んでおり、それどころか彼が吐き出した精が潤滑液となって、巨大なものを難なく受け入れてしまう。

「あ、ぅあ……」
「夕餉に呼ばれるまで、たっぷり可愛がってやるよ」

肩越しに振り返ると、彼はやっぱり意地悪な顔をしている。腰を打ち付けられるたびに漏れ出しそうになる声を抑えようと、自分の指に歯を立てながら、柊はもう、和泉守にされるがまま身を任せることにした。